株式会社 協同病理
検体の取扱い
最終更新日:2008.12.1

当社では凍結組織や固定組織からの各種標本作製のほか、培養細胞などの細胞材料を対象とした試験研究業務も取扱っています。
また、自施設内に病理検査部門を有する医療機関、研究機関からの各種染色や遺伝子解析、画像解析などの御依頼にも応じており、各施設の状況に合わせてブロック、未染標本など幅広い材料・試料に対応しています。
そのほか、生体(動植物)からの組織・細胞以外にも食品、金属・樹脂など工学素材、鉱物など幅広い試料への技術応用を研究しています。

組織や細胞など生物試料は採取直後から経時的に変化・変性が始まります。採取直後の試料(検体)の処理は検査工程の一部と考えて迅速で適切な処理が必要です。以下、生物試料の取扱いについてご説明いたします。

固定組織での御依頼に際してのお願い

[ 1 ] 特殊な場合を除き固定液に浸漬したままの状態か、固定後70%エタノールなど低濃度アルコールに浸漬させてお送りください。 浸漬固定の場合は、試料の最大径より口径の広い容器に、試料容積の3倍量以上の固定液中に全体が浸るようにして固定してください。

[ 2 ] 項目や目的により最適な固定法が異なることがありますが、一般に固定時間が長期にわたると染色性や免疫・化学反応性が低下しやすくなりますのでご注意ください。

[ 3 ] 固定液の種類によって組織内浸透速度が異なります。浸透力の弱い固定液を使用される場合は試料を小さく分割するか、被膜などに割面を入れ試料内部に浸透しやすくしてください。 なお、固定液の濃度を上げても浸透力は増しません。むしろ表面硬化により逆効果になることがあります。

[ 4 ] 固定液に浸漬したまま試料を移動・運搬する際には、安定な容器に入れて、液漏れしないように密封してください。

[ 5 ] 固定不良の試料でのご依頼はお断りすることがありますのでご了承ください。

(固定液については「各種固定液」の解説をご参照ください。自家調整が困難な場合は、当社から有償で供給可能ですのでご連絡ください。)


凍結組織での御依頼に際して

[ 1 ] 摘出後すみやかに、液体窒素またはドライアイス・アセトン法等にて急速凍結を行い、凍らせたままお送り
ください。凍結前に組織を乾燥させたり、生理食塩水などに長時間浸漬しないでください。

[ 2 ] 氷点通過速度の遅い緩慢な凍結を行うと、氷結した水分によって組織構造が障害されますので極低温で急速凍結するようにしてください。一旦凍結した後は極低温でなくてもかまいません。むしろ液体窒素中などに長時間置くと組織は割れることがありますのでご注意ください。

[ 3 ] 凍結時には組織を直接単独で凍結する場合と、OCTコンパウド(クリオモルド)などの包埋剤に入れて固める場合とがあります。
  1) 組織直接凍結する場合:凍結後の組織を直接硬質プラスチックなどの容器に入れると移送中の衝撃により破砕しやすくなります。あらかじめ冷却したアルミホイールなどでゆるく包んでから容器に入れると緩衝効果があります。
  2) 包埋剤ごと固める場合:包埋皿(モルド=鋳型)に入れたまま輸送すると安全です。ただし、包埋剤は凍ると白濁・不透明になり組織の状態が見えなくなります。特に組織の包埋方向は後の工程に大きな制約を加えることになりますのでご注意ください。(凍結切片作製経験のある方向きです)

(凍結用包埋剤やモルドは各種市販されています。入手困難な場合は、当社から有償で供給可能ですのでご相談ください。)


培養細胞での御依頼に際して

[ 1 ] 原則として吸着細胞や細胞塗抹標本の作製が可能な場合は「細胞診」に準じてお取扱いください。

[ 2 ] スライドカルチャーの場合はチェンバー内に滴下式の細胞診用固定液(*)を注ぎ、10秒くらい後に余分な液を捨て、チェンバーをつけたままスライドをお送りください。 ポリエチレングリコールの被膜により保護され、室温で1週間くらいは保管できますが、埃が吸着したり、塗抹面を傷つけないようご注意ください。

[ 3 ] デイッシュの場合も基本的にはスライドと同様ですが、ディッシュの大きさ、厚さ、材質あるいは細胞層の厚さによってはディッシュごと処理できない場合がありますのでご相談ください。

[ 4 ] 浮遊細胞の場合は、細胞を洗浄した後、次のような処理が行われます。
  1) 目的の細胞を分離し、細胞保存液(*)に入れて半固定状態のまま輸送する。
  2) 遠心など集細胞処理を行い、薄層塗抹(Thin layer)標本を作製、細胞診に準じて固定し輸送する。
  3) PFAなどの固定液を加え凝固・沈降させて輸送する。(cell block法で処理)

用途・目的によって最適な処理法が異なりますので事前にお問合せください。

(* 商品名は挙げませんが、いずれも各種市販されています。入手困難な場合は、当社から有償で供給可能ですのでご相談ください。)  


未染標本での御依頼に際してのお願い

(特に免疫組織化学の御依頼に際して)
[ 1 ] 切片はムラのない厚さ(4μ程度)にしてください。
薄過ぎる切片では反応は弱く、また酵素処理などで溶けてしまうことがあります。特に免疫組織化学では厚過ぎる切片や気泡や皺の入った切片では非特異的反応が起こりやすく、熱処理などで切片が剥離しやすくなります。

[ 2 ] スライドガラスはシラン(APS/MAS)コーティングスライドを使用してください。
免疫組織化学を行う場合は熱処理などで切片は剥がれやすくなりますのでAPSなどの接着剤をコーティングしたスライドガラスを御使用ください。
なお、蛋白分解酵素処理を行うこともありますので、卵白アルブミンは接着剤として使用しないでください。
また、鍍銀など一部の特殊染色を行う場合は色素が非特異的に付着する原因となることがありますので接着剤は使用しないでください。

[ 3 ] 切片は水をよく切ってガラスに貼付し、37℃で一晩乾燥させてください。
コーティングスライドを用いた場合、水分を残したまま伸展板上で加熱しますと切片とスライドガラスとが密着しないことがあります。スライドを立てるなどして切片とスライドとの間の水をよく切ってから37℃で充分乾燥させてください。60℃で組織周囲のパラフィンを溶かすのは避けてください。
乾燥後は切片の状態を確認してください。組織周囲のパラフィンが溶けているもの、切片の一部が白濁しているものは接着剤を使用していても剥離しやすくなります。

[ 4 ] 標本は薄切後1週間以内にお送りください。
きちんとカバーされ保管状態の良いブロックの場合、数年経ったブロックから新たに切片を作製しても多くの抗体は充分な反応を示しますが、一旦薄切した切片は経時的に反応が低下しやすくなり長期保存ができませんので薄切後はできるだけ早くお送りください。

[ 5 ] 予備標本を必ず添付してください。
標本は1例ずつ条件が異なります。未知の検査材料に対して一回で満足な結果が得られるとは限りません。標準的な希釈倍率や反応条件が必ずしもその標本に最適でない場合もあります。これはまずやってみなければ判りませんので最初の1回は「予備試験」と考えてください。
また、脂肪織の多い材料や組織中へのパラフィンの浸透の良くないものは剥がれやすくなります。予備標本がある限り何度でもやり直しをします。
なお、できるだけ陽性対照標本を御用意のうえ試料に添付していただければ助かります。
(余った予備標本は原則としてお返ししませんので御了承ください。場合により精度管理用に使用させていただくこともあります。)

[ 6 ] 染色の目的、採取部位、固定法・時間などの情報を御記入ください。
目的や固定状況によっては反応条件を変える必要がある場合があります。(一例を挙げれば、クロモグラニンAは膵ラ氏島などに比べカルチノイドでは反応が弱く、さらに組織中に腫瘍細胞の占める割合が多い場合や固定時間が長い場合は一層弱くなりますので、その存在を証明するためには周囲組織が多少過染しても抗体濃度を上げる必要があります。)
また、採取部位によっては対象とする抗原の陽性対照となる成分を含む場合があり、わざわざ別に管理用陽性対照標本を用意する必要がありません。あらかじめ詳しい情報が判っていると前もって対処でき不必要なムダを省くことができます。(一部の抗体については陽性対照標本を確保するのが如何に大変なことかご理解ください。)

[ 7 ] 必要なことは必ず事前にお申出ください。
陽性対照、陰性対照あるいは吸収試験などが必要な場合は事前にお申出いただければ有償で対応致しますが、項目によっては対応が困難な場合もありますのでご了承ください。事前にお伺いしていない場合は不要なものとさせて頂きます。
その他、希望納期など要望事項、経理処理などご指定事項がある場合なども事前にお申出いただければできるだけ便宜を計るようにしますが、内容によっては対応できないこともありますのでご了承ください。。

薄切後の経時的変化の例
薄切後1w (RT) CD3
薄切後1w (RT) CD3
薄切後1w (RT) CD3
薄切後2w (RT) CD3
薄切後1w (RT) CD3
薄切後3w (RT) CD3
薄切後1w (RT) CD3
薄切後4w (RT) CD3
薄切後1w (RT) Vim
薄切後1w (RT) Vim
薄切後1w (RT) Vim
薄切後2w (RT) Vim
薄切後1w (RT) Vim
薄切後3w (RT) Vim
薄切後1w (RT) Vim
薄切後4w (RT) Vim
薄切後1w (RT) ER
薄切後1w (RT) ER
薄切後1w (RT) ER
薄切後2w (RT) ER
薄切後1w (RT) ER
薄切後3w (RT) ER
薄切後1w (RT) ER
薄切後4w (RT) ER
薄切後の切片を室温下で保存した場合の反応性の変化例を示す。表面抗原としてCD3、細胞質内抗原として細胞骨格のVimentin、核内抗原としてER(α)について、各々薄切した後の切片を室温で保存し、1週間ごとに同じprotocolで染色した。 抗原の性質、抗体の認識部位などにより一概には言えないが、薄切後2〜3週目くらいから反応の減弱がみられ、4週間後ではかなり反応は低下した。この傾向は、37℃、-40℃、-80℃などの温度や遮光/露光、通気/密閉など切片の保管条件を変えても大差なかった。 (この詳細は、道喜ほかにより第48回近畿医学検査学会にて報告した。)


包埋済みブロックでの御依頼に際してのお願い

[ 1 ] パラフィン、エポキシ、メタクリレート樹脂等でのブロック作製は、必ず経験の豊富な専門技術者・技師の方にしていただくか、その指導を受けて行ってください。ブロックの状態によっては依頼をお断りすることがありますのでご了承ください。

[ 2 ] ブロックを輸送される場合は、ブロックの表面(薄切面)が傷つかないようにご留意のうえ、高温・多湿の状態を避けてお送りください。

[ 3 ] ブロックの状態によっては、こちらで再包埋をさせていただくこともあります。よくある問題点としては、@包埋方向、位置の不適切(薄切面の面出し不良を含む)、A薬液の浸透不良(抜気不良を含む)、B処理過程での組織の乾燥などです。これらを元に戻してやり直すのは非常に大変な作業です。



対照標本の取扱いについて

[ 1 ] 免疫染色・特殊染色などでは、作業の精度管理上から下記のような陽性対照標本や、必要な場合には陰性対照標本を、試験対象標本と共に同時に染色することがあります。

[陽性対照]− Positive controlと呼ばれることもあります。
反応プロセスの正当性を評価するため、試験対象標本とは別に、検索目的とする蛋白・物質の存在が既知の標本を用います。

[陰性対照]− Negative controlと呼ばれることもあります
非特異的な反応を検証するため、試験対象標本に対して検索目的とする蛋白・物質と反応しない試薬(一般的には、一次抗体と同種動物の非免疫血清)を用います。

※ これは、あくまでも染色プロセスにおける対照標本のことを指しています。染色プロセスのみを重視する臨床検査と違い、実験・研究においては、実験系全体に対する「陽性/陰性対照」(たとえば、「対照群」など)という概念がありますので、混乱のないようにご注意ください。

[ 2 ] 免疫染色では、構造蛋白として常に発現している蛋白と異なり、特殊な状況下で発現が誘導されるような蛋白では既知陽性標本の確保が困難な場合があります。特に、ヒトの感染症で発現する物質の場合は、臨床材料を使用せざるを得ません。技術管理のためということで御理解を頂いておりますが、それでも倫理的問題もあって常時大量に確保することはできません。従って、陽性対照標本を用意することができない場合があることもご理解ください。

[ 3 ] 私どもでは、毎日大量の対照標本を用いており、捨てるくらいなら参考標本としてご依頼された標本と共にお送りした方が良いという考えから無償で差し上げることがあります。ただ、あくまでも技術管理上の目的から、1工程1項目ごとに行っているわけですから、1項目で複数施設よりご依頼を受けた場合にはat randomにしか差し上げることができません。従って、陽性対照標本などの添付を毎回保証できるものではありません。
(対照標本であっても、試験対象標本と同じ経費が掛かります。逆に、たった1枚のために毎回損失を出している場合が実に多いこともご理解ください。)

[ 4 ] 対象項目の特異性に関わらず、対照標本の添付を「当然のサービス」のようにお考えの方もおられますが、私どもはそうは考えておりません。たとえ、私どもから無償で添付することがあったとしても、ご依頼者の側から「要求」される場合には有償での業務として扱わせていただきますので、ご了承ください。また、前述しましたように、私どもではすべての項目についての陽性対象標本を用意することができませんので、ご依頼者の側で陽性対照標本(未染色標本)をご用意くださいますようお願い致します。